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2006年8月20日 (日)

準体助詞「の」

いただきました。私の現在の研究に直結するご論考です。

信太知子 (2006) 「衰退期の連体形準体法と準体助詞「の」―句構造の観点から―」『神女大国文』第17号, pp. 29-44.

長くなりますが、まとめの部分を引用します。

 準体法は、準体率から見て、中世末期にはかなり体言相当句を構成する力が衰退していたとはいえ、その点で準体助詞「の」が活用語承接機能を獲得する時期とのずれはないといえる。具体的には、内容節型において衰退傾向が著しく、また、主語、目的語成分の場合よりも、文末に位置し体言性を保持しにくい述語成分の場合に変化は急激であった。したがって、準体句に失われた体言性を保持するための「の」は、内容節型の述語成分で最も必要度が高かったといえる。「の」の出自からすると、「もの」等の意で、同一名詞型の主語、目的語成分などにまず出現することが予想されるが、初期の例にすでに内容節型述語成分の例も見られるのは右のような事情を反映したものといえ、この点でも準体法衰退とそれを補償する「の」という関係は十分に成立するものと言える。

現代語において【準体】はすべて【連体】あるいは【の】に変わったわけではない。述語との関係から体言性の強い主語、目的語成分の場合はともかく、体言性のさほど強くない格助詞「に」などが下接する連用成分では準体句のまま慣用句として残ったものも多い。これは「の」が「無色、無内容」とはいえ、「もの、人、こと」等の意味で使用される場合が多く、そのことが関係するものであろう。このことは主語、目的語以外の連用成分、特に古代語で【準体】の多用された「時、所」を示す準体句で「の」が用いられる例が少ないことの説明にもなりうる。その結果体系的すきまのようなものができ、接続助詞「に」「で」の場合には「のに」「ので」という形式に変化したと考えられそうである。また、同一名詞型より内容節型の句の方が陳述性が高いことはすでに指摘されており、例えば近藤(一九九二)では「作用性準体(筆者注 内容節準体)は文がそのまま抽象的に名詞化された従属節」と捉えられている。内容節型準体が述語成分となる場合、いったんは「の」を含んだ形をとるが、それでも文末あるいは節末では陳述性の高まりを阻止することは難しく、その結果「のだ(んだ)」という形で文末詞に変化することも多いといえる。逆に「だろう」「なら」など「の」確立以前に一語の助動詞、助詞と化していたと考えられる場合には体言相当句である必要はなく、終助詞が下接する場合同様【準体】を文相当句として受け入れ、「の」を介さない形が一般的で、「の」を加えると別のニュアンスが付加するようになると考えられる。

 内容節型における体言相当句が、準体法衰退により文相当句という方が適切なものになった時、それを「句」としてまとめるには文を引用できる「と」が最も適切な形式であったのであろう。すでに記したように現代語では内容節型において「という」「との」が必須の場合があることは周知の事実であるが、これらのつなぎ」の語を用いる傾向が時代とともに高まっていったことは信太(二〇〇四)で指摘したところである。九州方言において「の」ではなく「と」が選択されたのもこのあたりの事情が何らかの形で関係しているように思われる。

 では、同じ連体助詞の「が」、あるいは「こと」「もの」などの形式名詞でも準体法を補償することは可能であったのに、なぜ中央語で「の」が定着したのか。形式体言では不十分であったことについては前稿で指摘したところであるが、「の」が選択されたことに関しては、「の」と「が」の尊卑表現との関わりを指摘する説もあるが、中央語において「が」、連体格「の」という機能分担が行われたこと、「が」は主格の他に活用語に直接する接続助詞の機能も有したことが大きな要因と思われる。

 最後に準体法衰退の原因にも簡単に触れておきたい。すでに度々指摘したが、やはり終止形連体形同形化という現象が関係すると考えられる。活用語の終止形連体形同形化が中世末までには完了し、その結果、準体句そのままでは体言相当句と文相当句との区別が困難な状況が特に文末で生じたと考えられる。【準体】が文末で不安定ということからすると、逆に、準体法の衰退が同形化につながったという考え方も可能ではあるが、両者には時間的なずれがあり、たとえば【準体】がかなり認められる『天草本伊曽保物語』の文終止はほとんど連体形であるというように、同形化は少なくとも口頭語では中世末期には完了していたとみられ、同形化すなわち準体法の衰退という可能性は小さいと現段階では考える。準体法衰退の原因、連体形終止形同形化については、今後の検討課題としたい。(pp. 39-40)

あわせて、同論文に引用されている信太氏の先行文献を挙げておきます。

信太知子 (1976) 「準体助詞「の」の活用語承接について―連体形準体法の消滅との関連―」『立正女子大国文』第5号
信太知子 (1992) 「『枕草子』における連体形準体法―構文的な特質を中心に―」『神女大国文』第3号
信太知子 (2004) 「古代語における「といふ」型名詞節について―付「絶えむの心」―」『神女大国文』第15号

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