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2014年2月21日 (金)

学位申請論文公開審査のお知らせ

下記の要領で学位申請論文公開審査を行います。どなたでも参加できます。直接会場にお越しください。

チラシはこちら→「nanbu-defense2.pdf」をダウンロード

 

申請者:南部智史(国立国語研究所)

論文名:コーパス言語学および実験言語学に基づく格助詞交替の分析
日時:2014年3月4日14:00〜15:30
会場:大阪大学文法経済学部本館4階461教室
  (下記アクセスマップ4番の建物の4階です)
審査委員:(主査)金水 敏(大阪大学大学院文学研究科教授)
     (副査)岡島昭浩(同)
     (副査)石井正彦(同)
内容:申請者による発表、会場との質疑応答、審査委員との質疑応答
要旨:
本論文は、格助詞の交替を事例として言語変異の分析を行い、言語使用の際に人はどのようにして、ある言語変異形ではなくもう一方の変異形を選択するのか、という研究課題に取り組む。本論文の目的は、人がある言語形式を選択する時にどのような情報を利用しているかに関する言語使用のメカニズムを解明することである。本論文は、言語内/話者内の言語変異に関して、文法に関わる格助詞交替を事例として取り上げて、言語使用においてどのような条件下で言語変異体の選択が行われるかについて分析を行う。このような研究は、言語に必然的に存在する変異/バリエーション/ゆれといった側面を通して、言語の普遍性に関する研究に大きく貢献すると考えられる。また、言語変異体の選択に影響する要因を解明することで、ある言語現象の容認度に言及する言語使用 (E-language, performance) と区別される、文法性に言及する「言語能力」(I-language, competence)のより深い理解に貢献すると思われる。

 本論文では、「が/の」交替と呼ばれる、従属節主語標示としての格助詞「が」と「の」の交替現象と、「が/を」交替として知られている、可能形または願望形述部と共起する目的語標示「が」と「を」の交替現象を研究対象とする。

 本論文における言語変異を分析する方法論は3つの観点に基づく。コーパスを用いた定量的研究、心理言語学での実験による研究、それから音声学での実験による研究である。それぞれの分析方法は、おおよそ本論文の章立てに相当する。本研究で行うコーパスを用いた定量的研究は、社会言語学で発展を遂げてきた言語変異理論の枠組みで変異を分析する際にしばしば採用される手法に基づいている(cf. Labov 1972, 1994, 2001, 2010; Sankoff 1982; Johnson 2009)。言語変異理論の研究課題には、特定のスピーチコミュニティにおける言語変異体の使用とその言語形式が持つ社会的意味との関係、また、言語変異の使用の中で発生する言語変化のメカニズムの解明などが挙げられる。その際、言語変異体の使用に影響する言語内的/外的要因を特定することになるが、中でも重要な研究課題は、ある言語変異現象に言語変化が存在するかどうか明らかにすることであり、さらには、その変化の動機と原動力に関する変化のメカニズムを解明することである(cf. Weinreich et al. 1968)。本論文における心理言語学での実験による研究では、オフライン課題である容認度判断課題(cf. Sprouse to appear)とオンライン課題である自己ペース読文課題(cf. Just et al. 1982)を利用して、特に、統語論で長年議論されてきた言語現象に対する、言語処理と理解の影響について検討し、観察される言語現象の問題の所在を明確にすることを目的としている。この言語変異に対する心理言語学的研究は、コーパスに基づく研究では扱えない部分について明らかにしてくれる。というのも、社会言語学、変異理論的立場からコーパスを用いた分析を行う際、先行研究で分析対象の言語現象に対する影響が議論されていた「性別」や「年齢」などを言語外的要因として、個々の言語現象に関連する言語的制約を言語内的要因として設定するわけだが、先行研究でなぜその要因が影響するかが明確に議論されていない場合、コーパスに基づく定量的分析によってその要因の影響が統計的に有意なことを示すだけでは、言語学的な説明を与えてくれないからである。本論文の第3のアプローチである音声学での実験による研究では、文脈、つまり情報構造(cf. Vallduví 1992; Lambrecht 1994; Erteschik-Shir 2007)とそれを言語的に実現する韻律が言語変異の使用に与える影響を解明し、本論文で扱う言語変異が統語論的観点からは随意的選択、もしくは自由変異として捉えられているとしても、言語使用の際には、焦点や新旧情報といった文の情報構造といった側面から制約を受けていることを経験的に実証する。

 第2章では、定量的観点に基づいて、従属節主語標示に用いられる格助詞「が」と「の」の交替現象『「が/の」交替』(cf. Harada 1971)についてコーパスを用いた分析を行い、それら助詞の使用に現在進行中の言語変化が存在するかどうか議論した。また、「が/の」交替の助詞「が」と「の」の使用に関わる言語外的要因と言語内的要因について統計的観点からその影響を解明した。本研究では、国会会議録と日本語話し言葉コーパスをデータとして採用したが、それらは「が/の」交替における言語変化を観察する上で、収録されている発話量や話者情報などの観点から現時点では最適のコーパスであると考えられる。分析には混合効果ロジスティック回帰を採用し、その結果は、「が/の」交替には「が」が「の」に次第に取って代わるという言語変化が存在することを示したが、その一方で、該当する環境での「が」と「の」の使用は、「の」の使用が消失することなく安定することを示唆している。これは、主に「が/の」交替と統語構造が全く異なるが表層上区別がつかない疑似「が/の」交替(Sakai 1994, 菊田2002)の存在に起因すると考えられる。さらに、今回観察された言語変化の存在は、「が」と「の」の使用分布の歴史的変遷という観点からも妥当であると考えられる。ただし、疑似「が/の」交替の存在があるため、相補分布へ向けて進行している「が」と「の」の使用の分化については、現代韓国語と同様に(Jang 1995, Sohn 2004, Jin 2013)、完全に「が」と「の」の棲み分けにたどり着くことはないと予測する。

 第3章では、格助詞「が」と「の」の使用に対する言語処理と理解の影響について分析を行う。3.1節では、「が/の」交替の「が」と「の」に対する隣接性の影響について議論した。第2章のコーパスに基づく分析で確認された、「が/の」交替の「が」と「の」に対する従属節主語とその述部との隣接性の影響については、先行研究では特に統語論において1970年代初期より扱われてきたものの(cf. Harada 1971)、これまでその影響自体は経験的に実証されておらず、研究者本人による母語話者判断に基づいて議論が進められてきた。本研究では、容認度判断課題を行い、「が」主語と異なり、非隣接環境の「の」主語の容認度が下がることを経験的に実証した。さらに、自己ペース読文課題を行い、非隣接環境の「の」主語の容認度が低くなる原因を言語処理の観点から分析し、処理負荷の局所性について検討した。また、「の」主語に対する隣接性の影響について、特にMiyagawa(2011a)の理論的統語論による説明を紹介したが、本研究の実験結果では、非隣接環境の「の」主語の刺激文において、Miyagawa(2011a)の理論では予測していなかった、介在要素である、時制を表す副詞(TP付加詞)だけでなく場所を表す後置詞句(VP 付加詞)においても読み時間の遅延という形で処理負荷の増加が観察された。そのため、本研究では期待値に基づく言語理解の理論(expectation-based theory)(cf. Levy 2005, 2008)の観点から、刺激文における領域2の時制を表す副詞は、「の」名詞句の直後の期待に反するとともに「の」名詞句の解釈の再分析が行われたため、遅延が発生したと説明した。領域3の場所を表す後置詞句については、第2章のコーパスに基づく研究を参照し、その生起頻度が非常に稀であることから処理負荷の増加が発生し、読み時間の遅延という形で観察されたと論じた。3.2 節では、「の」名詞句の2種類の解釈の選択と言語外的要因との関係について議論した。第2章のコーパスを用いた定量的分析から「が/の」交替の「が」と「の」の選択に対する影響が明らかになった言語外的要因は、「の」名詞句の解釈の選択に対しても間接的に影響を与える可能性が考えられる。本研究では、予備的実験として文完成課題を行い、言語外的要因が間接的に言語理解においても影響を与えるかどうかを検討した。その結果、「の」の2通りの解釈の選択に対する言語外的要因の影響が観察された。この結果は、「が/の」交替に影響を与える言語外的要因との関係から派生した副産物と捉えることができる。ただし、たとえそうであったとしても、本研究では、言語外的要因が間接的に言語理解に対して影響を与えることがあるというデータを提供したことになる。また、「が/の」交替に影響を与えない敬語態度は、「の」の解釈に対しても影響が見られないことが実験結果から示された。さらに、言語内的要因であった時制を表す副詞の数、つまり従属節解釈を誘発する文構造に関する要因が、「の」の解釈の選択に影響を与えることも判明した。

 第4章では、目的語標示としての格助詞「が」と「を」の使用(「が/を」交替)と情報構造の関係について、韻律的特徴を用いた実験を行い、経験的観点から議論した。その際、先行研究(e.g., Shibatani 1975)で「が/を」交替に影響を与えるとされていた目的語と述部の隣接性の観点から分析を行った。まず Shibatani(1975)で自己報告による母語話者判断に基づいて指摘されていた「が/を」交替に対する隣接性の影響について紹介した。本研究では容認度判断課題を行い、その隣接性の影響を経験的に実証した。また、「が」名詞句の主語/目的語解釈の比率について基準値を推定するため、「が」名詞句の解釈における文完成課題を行ったところ、言語理解において「が」名詞句の主語解釈は、目的語解釈よりも圧倒的に優勢であることが証明された。最後に、様々な韻律パターンを用いた音声知覚実験を行った結果、「が」目的語は焦点を受けることを好むことから、助詞「が」が焦点と密接な関係がある、もしくは目的語に焦点を引き寄せることを示唆している。さらには、非隣接環境の「を」目的語の場合には焦点が目的語ではなく動詞の直前に位置する介在要素に置かれた場合に容認度が高くなったことから、動詞の直前の位置がデフォルトで焦点を受ける位置であるという経験的証拠を提示した。

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