酒場
吉田類(よしだ・るい)『酒場歳時記』(NHK出版, 2004, ISBN:4140881208)読み終わりました。筆者が愛する大衆酒場の紹介、酒場にまつわる蘊蓄、悲喜こもごもの酒場体験を書きつづる合間に、筆者独自の「酒場俳句」がちりばめられた本です。筆者のプロフィールを書き抜いておきましょう。
吉田類(よしだ・るい)
酒場詩人。一九四九年高知生まれ。仏教美術に傾倒し、シュール・アートの画家として活動、パリを起点に渡欧を繰り返す。後にイラストレーターに転身し、九〇年代からは酒場や旅をテーマに執筆を始める。著書に『立ち飲み詩人のすすめ』(同朋舎発行、角川書店発売)、『東京立ち飲みクローリング』(交通新聞社)他。現在は俳句愛好会を主宰し、BS-i『吉田類の酒場放浪記』に出演。
私がなんでこの本を手に取ったかというと、この『吉田類の酒場放浪記』を好んで見ていたからなんですね。月~金の朝9:30から15分だけやってる番組ですが、吉田類氏が、東京近郊を中心に、たまに北海道や高知の特集をおりまぜながら、1回につき1件の酒場を訪れ、レポートをする、という番組です。レポートといっても、吉田類氏はちょいオシャレではあるが風采の上がらないオヤジですし、もごもご、ぼそぼそしゃべるだけで、気の利いたことはほとんど言いません。ただ、本気で飲んで、本気で酔っぱらって、大衆酒場の雰囲気に完全になじんでしまうところがとてもいいんです。最後の方は、だいたい呂律も回らなくなります。
私は偶然回したチャンネルで見つけていらい、なぜか引き込まれるように見てます。家人も、子供たちまで含めて何となくつられて(見られるときは)見てます。我が家では「ルイルイ」という愛称まで付いてます。
で、本の方ですが、番組とはかなり印象が違って、かなり情念的な詩人らしい文章に少し驚かされました。意外でしたが、これはこれで楽しめます。放浪に近い人生を歩み、家族もなく、体調も思わしくなく、それなりの生きる苦悩と、それだからこそ一瞬の酒場の快楽に身を沈めるオヤジの生き様がいい味出してます。本書に収められた八十八句のうちから、春の句を少し抜き出しておきます。
湯気のぼる胎内酒場に春の宵
紅椿ほどけて落ちぬ妓楼跡
夜桜や天に猫の目ひとつあり
(余談ですが、こんなゆるーいオヤジ番組だれも見てないだろうと思ってたのですが、愛媛大のS先生と話している時にこの番組のことを話すと、意外にもよくご存じだったので驚いたことがあります。ケーブルテレビに流れているそうです。お嬢さんが東京で俳句をやってらっしゃるので、知人の知人くらいでつながりがあるかも知れないとおっしゃってました。)
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