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2006年5月 1日 (月)

dVC分析:序章

04791474 dVCは、『ダ・ヴィンチ・コード』*1です。ネタバレのおそれがありますので、未読の方はご注意下さい。

dVCがなぜ売れるのか、映画はヒットするか、というわりと俗な話題ですが、少し考えたいことがあるので書いてみます。

この小説には、中世の異端思想や教会の陰謀や聖杯伝説などについての豊富な知識や、精緻な暗号などの謎解きの仕掛けがちりばめてあって、そういう点は確かによく出来ていると思いました。たぶん、美術史や宗教史などの専門家などにはいろいろ意見があるのでしょうが。現に、今年の春に退職された西洋美術史のW先生は、ご講演の際に、dVCに述べられた最後の晩餐の解釈について異論を唱えられていました。プロが何か言いたくなるということは、それだけ基礎がしっかりしているということで、まんざらヨタ・ホラ話ばかりでもないのでしょう。

私は、そういった細部の仕掛けについては語るべき知識を持たないので、ほとんど述べません。関心があるのは、物語の骨格の部分です。そして、その骨格に関しては、dVCは大変オーソドックスで単純な構造を持っていて、だからこそ小説は売れたし、映画も、よっぽど下手な作り手でなければそこそこヒットするのだろう、と考えています。

分析の下敷きは、ワンパターンですが、キャンベル*2/フォーグラー*3の Hero's journey です。平たくいうと、「宝探しの冒険」です。キャンベルの方についてはまだ勉強不足ですので、もっぱらフォーグラーに寄ります。あと、dVCにはメーテルリンクの「青い鳥」も少し入ってますね。「青い鳥」も Hero's journeyの一種ですが。

フォーグラーによれば、Hero's journey は以下のようなものです。

「普通の生活」をしている〈ヒーロー〉が、ある日、異界の〈使者〉から「冒険への呼び出し」を受ける。〈ヒーロー〉は一旦この「呼び出しを拒絶する」が、老人の〈助言者〉に導かれ、励まされ、力を授かり、旅立つのである。〈ヒーロー〉は「最初の関門」にさしかかり、〈関門の番人〉に「試練」を与えられる。それらの過程で、〈味方〉と〈敵〉が明らかになっていく。〈敵〉は、〈ヒーロー〉を呪い、苦しめようとする〈影〉の部下であったり、〈影〉そのものであったりする。〈トリックスター〉はいたずらや失敗で〈ヒーロー〉たちを混乱させ、笑わせ、変化の必要性に気づかせる。〈変貌者〉は〈ヒーロー〉にとって異性の誘惑者で、〈ヒーロー〉は彼/彼女の心を読みとることが出来ず、疑惑に悩まされる。やがて〈ヒーロー〉は「深奥の洞窟への侵入」を試み、「苦難」をくぐり抜け、宝の「剣(報酬)をつかみ取る」。〈ヒーロー〉は「帰還への道」をたどるが、その途上で死に直面し、そして「再生」を果たす。その後「神秘の妙薬を携えて帰還」するのであった。

ここで、〈ヒーロー〉とか〈影〉とかいうのは登場人物の「原型(archetype)」に与えられた
名称です。

フォーグラーによれば、「普通の生活」「冒険への呼び出し」「呼び出しの拒絶」「助言者との出会い」「最初の関門」あたりまでを第1部とし、映画の脚本で30頁くらいとされています。

また、「試練、仲間、敵」「最奥の洞窟への進入」「試練」「報酬」あたりまでが第2部であり、60頁くらいを費やすとよいそうです。また、第2部の後半が「危機(Crisis)」になります。

最後に「帰還」「復活」「お宝とともに帰還」が第3部であり、脚本で30頁になります。第3部の後半が「山場(climax)」になります。

さて、実際にこのテンプレートにdVCがどの程度当てはまるか、考えていきます。

*1 ダン・ブラウン(著)越前敏弥(訳)(2006)『ダ・ヴィンチ・コード』上・中・下、角川文庫、ISBN:4042955037;4042955045;4042955053
*2 Campbell, Joseph (1949) The Hero with a Thousand Faces, New York:Pantheon Books. (邦訳 平田武靖・浅輪幸夫(監訳)『千の顔を持つ英雄』人文書院、1984, ISBN:4409530046;4409530054
*3 Vogler, Christopher (1998) The Writer's Journey, Second Edition: Mythic Structure for Writers, Michael Wiese Productins, Studio city, ISBN: 0941188701.

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