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2006年6月 5日 (月)

サイボーグ009メモ

018689760000 役割語研究のケーススタディとして、「サイボーグ009」を取り上げたことがあります*1。この作品のキャラクター設定は、様々な関係性が盛り込まれていて、大変おもしろいと思います。マジョリティとマイノリティという観点からキャラクターを分類することを思いついたので、メモしておきます。この場合、マジョリティ/マイノリティとは、社会的に優位/劣位にある(と読者が感じる)という意味で用いています。

ご存じない方のために、この作品の梗概を述べます。

ブラックゴーストという悪の軍団が、世界各国から拉致してきた9 人の男女に、最強の兵士として仕立てるべく改造をほどこし、超人的な能力をそれぞれに与えた。その改造に手を貸したのが、天才的科学者、ギルモア博士であるが、博士は良心の呵責に堪えきれず、9 人と力を合わせて脱出を果たす。その後、9 人のサイボーグたちとギルモア博士は、日常的な世界では、様々な職業について世間の目から逃れる一方で、機に応じて参集し、その能力と知力を結集して、ブラックゴーストはじめ、世界の悪人や、地球をおびやかす超常的な存在と死闘を展開していく。

9人のサイボーグ+ギルモア博士のキャラクター設定は以下の通りです。

001 (本名:イワン・ウィスキー)ロシアの幼児にして天才児、超能力者
002 (本名:ジェット・リンク)ニューヨーク・ウェストサイドの不良少年
003 (本名:フランソワーズ・アルヌール)フランスのバレリーナ
004 (本名:アルベルト・ハインリヒ)東ベルリンの反政府主義者
005 (本名:ジェロニモ・ジュニア)ネイティブアメリカンのカウボーイ
006 (本名:張々湖)中国人の料理人
007 (本名:グレート・ブリテン)イギリスの元シェークスピア俳優
008 (本名:ピュンマ)アフリカの元奴隷、野生動物の監視官
009 (本名:島村ジョー)日本人の母と国籍不明の父との間に生まれた混血児であるカーレーサー、
ギルモア博士 ハーバード大学出身のサイボーグ研究者

まず、性別による分類です。

マジョリティ=男性:003以外の全員
マイノリティ=女性:003

斎藤美奈子氏の言う、典型的「紅一点」構造です*2。

次に、国籍・人種による分類です。

マジョリティ=白人:001, 002, 003, 004, 007, ギルモア博士
マイノリティ=白人以外:005, 006, 008
両義的=009

精華大学の吉村和真さんがおっしゃっているよう*3に、マンガでは、白人の身体=小さい顔、白い皮膚、長い手足、金髪等の身体的特徴が、理想の身体として扱われています。これに対し、黒い皮膚、短い手足・がに股、モヒカン、入れ墨等の特徴は、マイナス的要素として扱われています。009は、西洋人と日本人のハーフで、日本人の心を持ちながら、身体的には白人です。

次は年齢です。

マジョリティ=成人・壮年:002, 003, 004, 005, 006, 008, 009
マイノリティ=幼児・老人:001, ギルモア博士
両義的=007

幼児、老人は、成人・壮年にいたわられ、養育される存在として描かれています。なお007は、見た目は老人に近いのですが、変身能力を持っていて、しばしば小さい男の子として現れます。年齢・世代を越境するトリックスターとして立ち現れています。

このように、重層的な対立軸が仕掛けられることによって、起伏のあるストーリーが紡ぎ出されるわけです。なお、サイボーグ全員が、肉体改造者すなわち異常な身体の所有者として、健常者に対するマイノリティの性格が与えられています。そのため、日常的には自分たちの素性を隠し、一般人として生活しているのです。

その他、例えば002はニューヨークの下町の不良少年、004は東ベルリンの反政府主義者など、マイノリティとしての特徴が個々に与えられている点も注意されます。

*1 金水 敏 (2005) 「近代日本マンガの言語」(Le Langage dans le Manga moderne japonais) 『Le Japon, d'autres visages 日本、もうひとつの顔』pp. 176-186,  阪大フォーラム2004委員会, 21世紀COEプログラム「インターフェイスの人文学」

*2 斎藤美奈子 (1998) 『紅一点論:アニメ・特撮・伝記のヒロイン像』ビレッジセンター出版局(ちくま文庫に再録、2001年)

*3 吉村 和真 (2005) 「近代日本マンガの身体」(Le corps dans le Manga moderne japonais) 『Le Japon, d'autres visages 日本、もうひとつの顔』pp. 187-198,  阪大フォーラム2004委員会, 21世紀COEプログラム「インターフェイスの人文学」

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コメント

ご無沙汰してます。サイボーグ009と聞いて思わず反応。

おそらくはご存じでしょうが、サイボーグ009は映画化によってキャラクターが少し変化してます。

009はもともとは不良少年で、少年院を脱走したところをブラックゴーストにさらわれたのですが、映画の主人公がそれじゃまずいということでレーサーに変更、レース中の事故の際に拉致されたことになりました。

007のほうも、子供向け映画なのに子供キャラクターがいないのでは親近感を抱いてもらえないからとあの姿にもなりましたが、原作ではおおむね老人キャラです。

ゼロゼロナンバーサイボーグは「行方不明になっても問題のない人物を選んでさらってこい」という命令で集められたのですから(例外は003のみ。家出少女と間違われたらしい)、社会的にはほぼ全員がマイノリティということになりますね。

投稿: matsumu_2005 | 2006年6月 5日 (月) 23時22分

matsumu_2005さま、コメントありがとうございます。ご指摘の通り、全員が何らかの形でマイノリティ性を付与されていることになりますね。

マイノリティ性、何らかの欠格性こそが、ヒーローを旅立たせる動機となるのだろうと思います。

投稿: SKinsui | 2006年6月 5日 (月) 23時53分

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