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2006年6月12日 (月)

AiとAyumu

Springerfront 昨日の「関西言語学会」(於甲南大学)で、松沢哲郎さん(京都大学霊長類研究所)の招待講演「チンパンジーの認知発達」がありました。

松沢さんが28年間取り組んでいる、チンパンジーAiちゃんの研究ですが、最近はAiちゃんの息子のAyumuくんを加え、母子間の相互関与に関する観察を含めた、比較認知研究が進んでいます。ご著書 Cognitive Development in Chimpanzees も出版されたとのことで、昨日のお話は、この新著の内容を中心になさいました。優しく、丁寧なお話ぶりで、また、画像、動画、グラフなどを効果的に使用され、大変楽しいご発表でした。

チンパンジーの母子を観察することで、人間の特徴がかえってよく見えてくるということでしたが、印象的だったトピックを列挙しておきます。

  • 子育てをする動物の中で、子が親にしがみつくのは、猿(ape, monkey)だけ。さらに、親が子を抱きしめるのは、類人猿(ape)だけ(松沢先生「母牛は子牛を抱きしめない」)
  • 母子が見つめ合うのは類人猿だけ(類人猿以外では、相手の目を見るのは攻撃・威嚇のサイン)
  • 類人猿の中でも、新生児を仰向けにして安定するのは、人間だけ(類人猿の新生児を仰向けにすると、必ず片手・片足を持ち上げる)。仰向けになった赤ん坊に手を振ってあやすのは、人間だけ。
  • チンパンジーにも、新生児模倣がある(生まれたばかりの赤ん坊が、おとなの表情を無意識にまねること)
  • チンパンジーの新生児にも、新生児微笑がある(新生児がまどろみの中で、ほほえみの表情を浮かべること)。親を見てほほえむ社会的微笑が現れると、新生児微笑が消えていくのは、人間といっしょ。
  • チンパンジーの方が人間より遙かに上手にできる、知的タスクがある。

最後の点で驚いたのは、次のような実験です。

  • まず、コンピュータの画面上のランダムな位置に、数個の異なる一桁の数字を提示し、小さい数字からさわって消していく訓練をする。
  • これが上手に出来るようになったあと、一旦表示された数字を零点何秒後にマスクし、場所以外は見えなくする。

つまり、こんな感じです。まず、こんな画面がでます。

6 9
2 8
3 4 5
7 1

そして次の瞬間、画面はこうなります。

6 9
2 8
3 4 5
7 1

マスクされたあとで、同じように、数字を小さい方からさわって消していくのですが、人間は全然出来ないんですね。Ayumuくんは、6ヶ月程度ですごい正答率に達していました。

また、アフリカにおけるチンパンジーの集落の観察から得られた、文化の伝達の話もありました。Bossouのチンパンジーは、石器を使ってアブラヤシの実をたたき割る文化を持っていますが、これは3,4歳になってやっと出来るし、上手に出来るまで10年かかるそうです。このような、時間のかかる技術の習得は、報酬による強化だけでは説明できません。チンパンジーの子供は一般に学習意欲が高く、親は決して自発的に教えたりしないのですが、子供が真似をしようとして寄ってくるのは決して排除しないそうです。

類人猿を「一人」「二人」と数えたり、画面のチンパンジーをさして「この方は」「この子は」などと示されたりする様子に、先生の「人類愛」ならぬ「類人猿愛」が感じられて、心が和みました。

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