モーツァルト・名曲の秘密
食事が終わってから、食休みのため、私は一人でDVDを見ていました。映画は、「アマデウス」です。この映画、もう5, 6回見てるんですけどね。でもいい映画ですから、繰り返し鑑賞に堪えます。
ただ、やはり映画(あるいは、ピーター・シェーファーの戯曲)「アマデウス」と、歴史上の人物としてのモーツァルトとは区別すべきである、ということは、改めて感じます。というより、この映画によってモーツァルト像が固められてしまうのは、少し問題があるだろうと思います。モーツァルトは、決してサリエリの嫉妬によって殺されたのではないのです。
さて、この映画の冒頭5分くらいのところで、興味深いシーンがあります。「私はモーツァルトを殺した!」と叫んで、謎の自殺未遂を起こしたサリエリが精神病院に収容され、そこで神父と対面する場面です。サリエリは、自分の作曲した自慢の曲を、手許のクラヴィアでいくつか聞かせますが、神父は残念そうに「知りません」と言います。サリエリは、「これはどうだ」、と「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」を引いて聞かせると、神父はぱっと明るい顔になり、メロディーを口ずさみ、「それなら知っています!とてもチャーミングな曲だ!」と言うのです。
このシーンは、モーツァルトの死後も彼の音楽が不滅であることを、サリエリとの対比で示したとても印象的なシーンですが、ここで、「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」がモーツァルトの代表曲であり、そのメロディをだれでも知っているということが前提になっています。ところが、最近NHKの音楽番組で知ったのですが、事実はそうではなかったようです。
「アイネク」(長いので、略します)は、作曲の経緯も分からないまったく無名の曲で、長らく人々に知られることがなかったそうです。それが有名曲になったのは、20世紀になってから、SPレコードがよく作られるようになったとき、その長さがレコードの「尺」にちょうどはまるということで、有名な演奏家が次々と録音したことによるのだそうです。つまり「アイネク」は、レコード文化が作り出した、近代の名曲だったのですね。
だから、「アマデウス」のこのシーンは、歴史としては問題があるのだけど、しかし現代の私たちが作品として見る限りにおいて、成功していると言うべきなのです。逆の視点で言えば、やはり、作品を歴史と同一視してはいけない、という一つの例になるのでしょう。
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