世代によって使い方が違う語
言語の意味は少しずつ、あるいは急速に変わるのが常ですが、人を評価する語で、最近随分意味が変わってしまった語があります。次の文例を見たとき、世代によって受け取り方が変わってくると思います。
その1:キレる
(例1)あの人、結構キレるんですよね~
上の世代の人は、「あの人」は(1)頭のいい、優秀な人と受け取る割合が高いでしょうが、若い世代の人は、「あの人」のことを(2)気の短い、扱いにくい人と受け取るでしょう。
つまり、「きれる」というのは頭の働きが鋭いことを言う言葉だったのに、最近では、怒りに駆られて平常心を失う様子を現す言葉として使われることが多くなったからです。「ぶち切れ」などという言い方もありますね。
その2:ひかれる
(例2)Aさん「私、10分話しただけで、Bさんにめちゃくちゃひかれてしまいました。」
上の世代の人は、(1)AさんはBさんに好意を持ったと受け取りやすく、若い世代の人は、(2)AさんはBさんに「変な人だ」と思われた、と受け取りやすいのではないでしょうか。例えば、Aさんがオタクっぽい趣味のことを熱っぽく語ってしまったとか。
これは、「(こころが)惹かれる」という用法が昔からいあった一方で、最近、「引く」という動詞に、「人の言動に異様さを感じて、尻込みする/テンションが下がる」といった意味が生じてきたためと分析できます。「どん引き」という言葉も、テレビでよく耳にします。
この記事を読んだあなた、例文を見てどちらの解釈が頭に浮かびましたか?
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コメント
確かに、文章(文字)で読んだ場合には、どちらの意味か、迷いそうですね。
ただ、実際の会話では、話者の年齢やイントネーション、前後の文脈で判断できる場合がほとんどだと思うのですが…。
投稿: Lionbass | 2007年2月 3日 (土) 15時30分
Lionbassさま、
コメントありがとうございます。もちろん、現実の会話の中で意味が混同されることは少ないでしょう。この例文は、わざと分かりにくくなるように考えて作っています。それだからこそ、言葉の感覚を調べるリトマス試験紙になる、というつもりです。
投稿: SKinsui | 2007年2月 3日 (土) 15時50分
「キレる」で思い出したのですが、山川健一という作家が『「書ける人」になるブログ文章教室』という新書のなかで、以下のようなことを述べており、「へぇー」と思いました。
(……)
たとえば日本には昔から「腹に据えかねる」という言い方がある。この頃は「肝に据えかねる」と言う人もいるようだが、厳密に言えばこれはまちがいで「腹に据えかねる」が正しい。
時間が経ち、「ムカつく」という言葉が生まれた。
さらに「キレる」という言葉が誕生した。
どれも「不愉快で腹が立つ」ということを表現しているのだが、時代が進むにつれてその部位が上に移動しているのがわかる。脳に近くなっているのだ。
ムカつくのは「胸」であり、キレるのは「脳」の血管だろう。われわれは等しく、怒りを脳から胸へ、さらに腹へと押し戻さなければならないのではないだろうか。(……)(山川健一 2006『「書ける人」になるブログ文章教室』ソフトバンク新書:23)
投稿: emodoran | 2007年2月 3日 (土) 15時56分
emodoranさま、
ありがとうございます。「怒り」の感覚が上昇していく、というのは面白いですね。「腹立つ/腹居る」という表現は鎌倉からありますし、「腹が煮える」というのも比較的古いですが、「頭に来る」というのは新しそうです。
投稿: SKinsui | 2007年2月 3日 (土) 16時26分
ず〜っと昔、ネットが黎明期の頃の某氏の署名
---
一字違いで大違い
「頭が切れる」
と
「頭が切れてる」
---
この面白さもだんだん通じなくなるんでしょうかね。
投稿: Do | 2007年2月 5日 (月) 20時55分
Doさま、
コメントありがとうございます。「ず~っと昔」がいつ頃だったか、分かると興味深いですね。
投稿: SKinsui | 2007年2月 5日 (月) 21時10分
「ず~っと昔」とは20年ほど前ですね。まだWebはありませんでした。
その頃流通していた署名
「後悔後を絶たず」
「小さなことは気にしない 大きなことは手に負えない」
など
ヘ_ヘ
ミ・・ ミ
( )〜
こんな「へみ猫」も棲息してました。
投稿: Do | 2007年2月 6日 (火) 22時31分
Doさま、
ありがとうございます。80年代中頃、ということですね。
大学生時代、「備え無ければ憂い無し」ということばがはやりました。試験前に、みんなでつぶやいてました。
投稿: SKinsui | 2007年2月 6日 (火) 23時07分