スペインの雨―状態語・和漢談義
下記の下線部の語句を、何と読まれますか。
1. 主に平野に降る
2 主として平野に降る
3. 主たる収入源
4. 主な収入源
標準的には、1. オモに 2. シュとして 3. シュたる 4. オモな だと思います。辞書類には、この読みしかないはずです。
ところが、最近、そうとうよくできる日本文学の大学院生までが、2を「オモとして」3を「オモたる」などと読んでいたりするので、気になっています。
同じような問題として、
5. 意見を異にする
6. 異を唱える
7. これを異として
8. 異なる見解
というのもありますね。5. コトにする 6. イを 7. イとして 8. コトなるであろうと思いますが、5「イにする」という読みに出会うことがよくあります。
これらは、6は別として、
和語・ナリ活用(ニ・ナ(ル)) 例:1, 4, 5, 8
漢語・タリ活用(ト・タル) 例: 2, 4, 7
という対立の一部ですね。ナリ活用の方は、「縁は異(イ)なもの」のように漢語の例もあるわけですが、タリ活用は、かなり漢語に限定される訳ですね。たとえば
堂々と・堂々たる 断固として・断固たる 決然と・決然たる
などです。ただこれも、「男(おとこ)たるもの」のように普通名詞の場合は和語も現れますが、状態語の例外は少ないでしょう。
私たちは、あまりこういうことを体系的に学習する機会はないように思うのですが、しかし読みを耳で聞いていくなかで、メンタル・レキシコン(心的辞書)の中に、「和語グループ」「漢語グループ」という語彙の固まりが自然に形成されていくのだろうと思います。
大学院生レベルでこの辺が混乱してくるというのは、「和語・漢語」という区別に関するリテラシー(読み書き能力)が、近年急速に弱まってきていることの一端であるように感じられます*。
*ただ、そのことを、「日本語の混乱・危機」と捉えるかどうかは、また別の議論ですが。日本語の和語・漢語・外来語とその表記システムは、諸言語と対比してあまりに複雑すぎるという思いを日頃抱いていますので、これが混乱していくのは当然の成り行きにも思えます。
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コメント
全く、同感です。「オモとして」という読み方、私も数年前から耳障りでした。数年がいつか(7年前以上であることは明かです)というのは曖昧ですが、どこかで突如発生した、という感もあります。語学的説明に得心しました。ご教示ありがとうございます。
atokは、「主に」を「シュニ」と入力しても漢字変換されますが、これは、神様のほうでしょうね。The rain in Spain stays mainly in the plain.を訳すとき、ひらの、とか、和語を基調にしながら、「雨(ame)」と「主(omo)」との類音連想を入れてあるのも、不自然ですが好きでした。私が最初に聞いた吹き替えの声優は、池田昌子だったか、武藤礼子だったか。武藤礼子のほうが、圧倒的に好きでしたが。無駄話、失礼しました。
投稿: 柳風子 | 2008年10月 4日 (土) 11時48分
柳風子さま、コメントありがとうございます。
私はこの文章を、柳風子さまもご存じの院生のMくんを思い出しながら書きましたが、7年以上前とは、ずいぶんさかのぼることですね。
オードリー・ヘップバーンの声優は、三井住友銀行のCM(「ローマの休日」)にあてているのが、池田昌子さんでしょうか? 武藤礼子さんの声がどんなだったか、すぐに思い出せませんでした。
投稿: SKinsui | 2008年10月 4日 (土) 13時30分