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2009年1月 3日 (土)

Erasmus Mundus

私の勤務校のO大学は昨年10月から、エラスムス・ムンドゥス・プログラム (Erasmus Mundus Programme. 以下、EM) の域外協力校として、ヨーロッパからの短期留学生を受け入れ、英語の授業を提供しています。EM の中でも特にユーロ・カルチャーという人文系のサブ・プログラムで、文学研究科を中心に、5つの講義を提供することになりました。すべて、授業は英語で行われます。

私は、あまり深い考えもなしに、自分でも出来そうな気がして、授業担当者に加わってしまいました。役割語をテーマにした授業です。英語での授業はこれまで2回やったことがあったし、役割語の英語の講演も何回かやっていたので、大丈夫だろうと思い、軽く引き受けたのです。

でも、1回目の授業が終わって、これは大変なことになったと心底へこみました。思ったことの10分の1も言えないし、英語の教材を毎回そろえるだけでも時間がかかるし、エラスムス・ムンドゥスの授業のシステムにも不案内だし、目の前が真っ暗になって、1回目の授業のあとすぐ校舎の屋上から飛び降りたい気持ちでした。

しかも、授業が円滑に行われるようにと、主催校のグローニンゲン大学から教授の方が来られて、すべての授業の参観をされるということになりました。これはすごいプレッシャーです。

「とんでもない能力の低い教師がいる」

なんて報告されるのではないか、と本気で悩みました。学生も、自分を値踏みしているように感じられ、視線が針のように突き刺さってくる気がして、まともに顔が見られませんでした。心の支えは、「この内容なら世界中で自分に勝てるものはいない」という自負だけでしたが、何度も心が折れそうになりました。

しかし、3,4回授業を進めるうちに、少し余裕も出てきて、学生の顔も認識できるようになりました。特に、義務として2回行うことになっていたフィールドワークで、11月に宝塚市立手塚治虫記念館と、京都国際マンガミュージアムに連れて行ったときは、学生とも少しうち解けて会話もできるようになりました。

EMの学生さんは、ドイツ人、イギリス人、スペイン人の男性、ドイツ人、ポーランド人の女性の計5人で、全員熱心で積極的に授業に参加し、しかも礼儀正しく接してくれました。学生のコメントやレポートから、かえって多くのことを学ぶことができました(それが、授業を担当した最大の目的だったのですが)。2回ほど参観されたグローニンゲン大学のデ・ヤング教授(女性)も、穏やかな方で、私の授業をおもしろがって下さいました(私の授業では日本のポピュラーカルチャーの歴史を取り上げたのですが、デ・ヤング教授は大の日本アニメ好きだったようです)。O大の学生も、単位を申請している2人を中心に、何人かがもぐりで出入りしていました。

10回の講義を終わってみて、引き受けてよかったというのが私の感想です。優秀で熱心な学生さんとの出会いもありましたし、この授業がなければ一生読まなかったかもしれない英語の文献もたくさん読みましたし、EM の厳密で創造的な授業のシステムを身を以て体験できたことも得難い経験でした。これ以上の FD (ファカルティ・ディベロップメント)はめったにないと思います。あと、TAを引き受けて下さった澤邊興平さんの高い能力には大変助けられました。

でも、あまりに負担も大きいので、来年度の担当は遠慮しました。優秀な先生はたくさんいらっしゃるので、私が担当し続ける必要もないと思います。できればたくさんの先生が体験されることがむしろ大事だと思いました。

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コメント

明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。

EM、教育の質も高く評価体制も整備されたすばらしいプログラムだと思います。このプログラムに参加することはこれ以上ないFDですね。
今私も職場で「FD道場プログラム」を担当しています(H20年度教育GP)。これは海外協定校(メキシコ、ベトナム、中国)にて本学教員に集中講義をしてもらうというものです(事前研修つき)。海外の学生は日本の学生とは違う授業の聞き方をしますし、言葉の壁などもあり、教員にとってはいいFDになるようです。

投稿: matsuda | 2009年1月 3日 (土) 13時58分

matsudaさま、
明けましておめでとうございます。

確かに、いろいろな国の学生に教えることは、教師にとってとてもいい勉強になりますね。
EMは、学生・教員の相互交流も含まれたプログラムで、教育にしっかりお金をかけているEUはとても見識が高いと思います。

投稿: SKinsui | 2009年1月 3日 (土) 15時03分

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