Dean's Night始めました
URAメールマガジン原稿 2016年7月号
金水 敏
大阪大学大学院文学研究科・教授
Toward the Dean's Night
2016年4月から2年間の任期で文学研究科長に就任しましたが、昨今の大学(特に人文系)を取り巻く環境の悪化の中で、執務と言えば基本、おもしろくないことばかりの連続と言えます。何かおもしろい、楽しいことがしたい、そういう心の叫びからDean’s Nightは発想されました。
文学研究科長室は結構広くて、私の知る限り研究科の中で一番調度が高級できれいな部屋で、ここで酒盛りをすると結構いい感じになる、と常々思っていたので、まず夏休み前に研究科長室に来たい人を集めてDean’s Barをやってみよう、と考えたのですが、ただ酒を飲むだけでは大学らしさがない、せっかくならゲストに話をしてもらおうと思い、しかし魅力あるゲストを呼んだら研究科長室では狭すぎる、じゃあ会議室で、そうするとbarというのはしっくりこないから、Dean’s Nightにしよう! と考えが進んで、構想が固まった訳です。
では、ゲストはどうするか? 真っ先にピンときたのが、理学研究科の橋本幸士さんでした。さる食事会でお知り合いになり、著書の『超ひも理論をパパに習ってみた』を拝読し、またfacebookを通じて魅力あるご活動を知るにつけ、第1回ゲストは橋本さんしかいない、と感じました。文学研究科ではふだん聞けない話を聞きたい、という思いもありましたし、橋本さんが最近やっていらっしゃる「多次元小説」の試みも文学研究科の人たちにアピールするのではないか、と思ったのです。さっそく橋本さんに伺ってみたところ、二つ返事でご了解を得ることができました。
プログラムが固まったところで準備にかかりました。橋本さんはありがたいことにギャラ不要、とおっしゃって下さったので、トークは参加費無料、そのあとの飲食タイムに参加する人だけ1000円いただく、と決めて、チラシ、ブログ、ツイッター、facebookで広報し、googleフォームで応募を受け付けました。最終的に40名ほどの応募があり(文学研究科内外の大学院生、教員、職員、学外の知人の他、阪大出身のプロの作家の方や、上方舞のお師匠さんなど多彩な顔ぶれが集まりました)、飲み物・食べ物の準備も終えて、当日を迎えました。
Dean's Night Open!
橋本さんは定番の「そりうし」Tシャツ(牛が反り返っているイラストが描いてあって、反り牛=素粒子のしゃれになっている)、短パン、サンダルというスタイルで文学研究科に現れました。これが理論物理学者の正装とのことです。橋本さんのご専門は、言うまでもなく理論物理学の最先端を行くご研究です。橋本さんによると、同じ事をやっている研究者は世界に1000人ほどいて、ジャイアントパンダとだいたい同じくらいだそうです。ガチでお話しされると文系人間には手も足も出ませんが、橋本さんは軽妙な語り口で、時折ユーモアを交えながら、というよりユーモア8割学問2割くらいのお話をされ、聴衆をたちまち魅了してしまいました。「多次元可視化プロジェクト」の一環としての多次元小節の話題をまずされて、そのヴァリエーションである「多次元俳句(多次元川柳)」を参加者にその場で作ってもらうという趣向も披露されました。後半では、理論物理学者の研究スタイル、素粒子の種類のこと、素粒子を「ひも」と考えることのメリット、光と重力についての新しい仮説など、最先端の研究動向を分かりやすく聞かせて下さいました。
トークのあとは、私の方から感想を述べさせていただき(人間・橋本幸士の本質、なぜ物理学者は尊敬されるか、数式という“言語”について、など)、フロアとのやりとりも活発に行われました。特に「はごろもチョーク」の倒産については、その後のマル秘情報なども教えていただいて有意義でした。
さらに飲食タイムでは、差し入れ・持ち込みも含めてふんだんなワインが飲み干され、90分があっという間に過ぎ去りました。「理学研究科と文学研究科でこんな本格的な研究交流があったのは、おそらく初めてではなかったか」との評価もいただきました。理学研究科の寺田健太郎さん、URAのクリスチャン・ベーリンさんなど、何人かの方にはこの場で初めてお目にかかれました。お時間のある方はその後研究科長室にお移りいただき、本件の出発点Dean’s Bar開店と相成りました。私手作りの「居酒屋ジオラマ」も公開されて話に花が咲き、これも気がつくと閉店時間になっていました(用途不明の研究科長室のダウンライトが初めて役に立ちました)。ご参加のみなさまの楽しそうにしておられるお顔を見て、満足度の高いイベントとなったかと拝察、主催者として胸をなで下ろしました。
Dean's Night, and beyond
実は、第3回目まで日程とゲストが確定しています。
2016年10月7日 吉森保さん(大阪大学大学院生命機能研究科教授)
2017年1月20日 山村若静紀さん(上方舞・山村流師範)
いずれも、ご専門を極めながら、同時にとてもお話がお上手な方々です。若静紀さんには山村流上方舞の実演もお願いします。さらにその2回先まで、ゲストと交渉が出来ています。私も一層のエフォート率を捧げて準備に努めたいと思います。大学ってこんなに楽しいところ、おもしろいことが出来るところ、ということを、全力で伝えていきたいと思っています。ご関心をもたれましたらぜひご参加下さい
(今後の予定は、私のブログ S. Kinsui’s Blogで公開していく予定です。http://skinsui.cocolog-nifty.com)。
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