学問・資格

2018年5月 2日 (水)

卒業式・式辞2018

備忘のために、掲載しておきます。つたない文章ですが、時間があればお読みください。

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文学部・文学研究科卒業・修了証書伝達式・式辞

                                                   金水 敏

                                               2018年3月22日

 みなさま、本日は大阪大学文学部・文学研究科のご卒業・修了まことにおめでとうございます。皆様の胸中には、これまでの学生生活のこと、そしてこれから訪れる未来のことなど、様々な思いが胸中に去来していることと想像いたします。

 さて、皆様が大阪大学で身につけたものはいったい何であったのでしょうか。むろん、哲学系、歴史系、文学系、芸術系、日本学系それぞれの専門分野における個別の知識をしっかり身につけられたであろうことは間違いありません。しかしそれぞれの専門分野を超えて、文学部・文学研究科の卒業生・修了生が等しく有しているはずの知識や技量とは何であったか、改めて考えてみたいと思います。それは端的に言えば、言葉を正確かつ厳密に用いる技術であったかと思うのです。私たちが論文を書く際に注意を払うことの中に、使用する一つ一つの概念の定義がきちんと出来ているかということと、その概念を用いて健全な論理が組み立てられているかということがあるかと思います。皆さんがくぐり抜けてきた演習での発表や論文の諮問等で、「その概念の定義は何か」「この前提からこの主張はどのようにして導き出されるのか」ということをしつこいほどに議論してきたのではないでしょうか。家造りに例えてみれば、概念とは煉瓦や建具のような建材であり、論理とは、建材と建材を組み合わせる際のアーキテクチャーに相当すると言えます。建材に欠点があっても、その組み立てに不適切な扱いがあっても、頑丈で暮らしやすい家を建てることはできません。私たちはこのような考え方で、自分たちの言葉を用いる技術を磨いてきたのです。この点は、専門分野の枠を越えた共通点と言えましょう。

 むろん、この点は一人文学部・文学研究科で学ぶ人文系の学問のみの特徴ではありません。社会科学、自然科学や工学等、すべての学問・研究に共通の基盤であります。学問の分野によっては、さまざまな実験、観察やフィールドワーク手法や統計手法、法体系をめぐる専門的な解釈、また数式の処理をめぐる技法などがそれぞれに重視される面がありますが、その基盤となるのはやはり概念規定の正確さ、厳密さと、論理の健全性です。一方で実験や統計処理やフィールドワーク等は人文系でも用いる手法であり、すべての学問体系はそのようにしてゆるやかにつながっているとも言えます。それでもなお、人文系の学問の特徴を強いて挙げるとするならば、私たちが対象とする領域は、私たちの日常生活に直結し、日々暮らしていく経験のすみずみにその対象が存在するということではないでしょうか。言葉を正確に、また適切に用いることで、実は私たちの生き方そのものを変えていくことが出来る場合もあるのです。

 ここで最近私自身の体験を少しお話ししたいと思います。私ども、文学研究科の教員は毎年ファカルティ・ディベロップメント、略称FDと呼ばれる教育・研究の向上のための研修を受けますが、今年度のこのFDでは、龍谷大学のLGBTサークルである「にじりゅう」の皆さんが来て、私たち教員と交流会を持ってくださいました。その場では、龍谷大学の「にじりゅう」に参加している学部生の方たちが自身の性的自認や性的嗜好について、時にユーモアをこめながら、生き生きと語って下さいました。その後の学生さんたちとの交流も含めてそれはとても素晴らしい経験であったと今ふり返って、改めて感じます。そこで私は、SOGI(複数のsを付けてSOGIsとも)という概念を初めて知りました。これは、sexual orientation and gender identities の略称です。この概念がLGBTとどこが違うか、どういった点が優れているかということについて考えてみましょう。  私たちの暮らしている近代社会では、異性愛と家父長制を唯一正しい人のあり方とするイデオロギーが長らく支配し、その支配のあまりの強固さがさまざまな弊害と息苦しさを社会にもたらしてきましたが、近年はそのイデオロギーに挑戦し修正しようとする考え方が徐々に社会に浸透してきていることもご承知の通りかと思います。例えば性同一性障害を認定する法律が出来たこともそうですし、LGBTという概念が広まってきたこともその一つです。しかし性同一性障害は体の性と心の性が一致しないことを「病気」として認定することであり、LGBTのL, G, Bはそれぞれ「性的少数者」とする認定を含んでいます。つまり特定の人を非正常者や少数者であると規定してしまう弊害もあり、逆に差別を助長しかねない側面もあるように思います。これに対しSOGIの考え方は、一人ひとりが固有の性的嗜好と性自認のあり方を持っており、どれが正しくどれが正しくないとか、何が多数で何が少数かということを決めません。つまりSOGIの多様なあり方がその人それぞれの個性の一部であると認めるのです。このSOGIの概念が広まることで、私たちの社会が私たち一人ひとりにとってさらに生きやすいものになっていくことが期待できます。もちろんそのためには法制度や公共トイレのあり方や学校における指導のあり方など、制度的な側面も同時に整備していかなければならないことは言うまでもありません。しかし間違いなくSOGIの考え方を法学、経済学、工学、医学等の考え方の基盤に据えることで、社会をより良く変えていくことができるのです。このように、一つの概念を導入することで生活や社会がすっきりと見通せる場合があること、また日々の暮らしがより生きやすくなる場合があることを改めて知らされました。

 ここで、卒業・修了していく皆さんに期待したいことは、これからの生活の中でも、絶えず言葉の正確さ、厳密さに気を配り、そしてよりよい言葉の使い方に工夫をしていってほしいということなのです。ここで正確さ、厳密さとは自分の考え方が唯一正しいとする硬直した態度をとることではなく、人の言葉を尊重し、しっかりと耳を傾けて聞くということも同時に意味します。世界は残念ながら往々にして、言葉の正確で厳密な使用を軽視し、勢いや思い込みや社会を覆う空気で物事を決め、結果として望ましくない方向に社会が流されていくこともしばしばであります。かつて日本が経験した第二次世界大戦の惨禍も、そのような空気の流れの中で引き起こされたと言っても間違いではないでしょう。例えば衆議の場で、特定の言葉づかいに意義を唱えることは時として場の雰囲気を壊すと非難されることもあるかもしれません。しかし時間はかかっても、じっくり議論を重ね、よりよい概念や論理をみんなで育てていく習慣を培うことが結果としては私たちの社会にとって間違いなくプラスになります。そのような社会を率先して作っていく人になってほしいのです。それは、何も「長」の付く仕事をしている人だけができることではなく、会社の一社員であれ、恋人同士であれ、母や父であれ、親を介護する子供であれ、人生のさまざまな局面の中で、それぞれの立場の中で日々実践していくべきことがらです。

 皆様どうぞ、大阪大学文学部・文学研究科で学んだことを日々の言葉の実践に生かし、今後ともすばらしい人生をお過ごしいただきますよう、心からお祈り申し上げます。以上をもちまして、私のはなむけのことばとさせていただきます。  

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2017年12月14日 (木)

Dean's Night FINAL のお知らせ

 Dean's Nightでは、私、金水敏(大阪大学文学部長)が、今お話を伺いたい方を文学部にお招きして、ご参加のみなさんとともに楽しいひとときを過ごします。

   第5回(2018年1月19日(金))のゲストは、ゲストに大竹文雄さん(大阪大学社会経済研究所・教授)をお招きし、ノーベル経済学賞でも話題になった「行動経済学」について、具体的な例に基づきながら、分かりやすくお話しいただきます。ふるってご参加ください。

ゲストのプロフィール:

大竹文雄(おおたけ ふみお)さん

Photo

大阪大学・社会経済研究所教授。労働経済学、行動経済学に関する著書多数。『日本の不平等―格差社会の幻想と未来』(日本経済新聞社, 2005年)で、サントリー学芸賞、 日経・経済図書文化賞、エコノミスト賞、日本学士院賞受賞。最新刊は『競争社会の歩き方—自分の「強み」を見つけるには』(中公新書、2017年)。漫才師・小説家の又吉直樹さんとともに番組の案内役を務めるNHK教育テレビ「オイコノミア」は6年目に突入した。

※このイベントは、どなたでも参加していただけます。下記の要領をごらんください。

日程:2018年1月19日(金)

第1部:そうだ、大竹先生に聞いてみよう—暮らしに生かす、行動経済学の極意—

 時間:17:30〜19:00ごろ

 場所:大阪大学全学教育推進機構・サイエンス・コモンズ・スタジオ A

    この項末尾のアクセスマップをご参照ください。

 参加方法:学生、教員、職員、学内外を問わず、どなたでも参加できます。事前申し込み不要・定員60名・先着順で受け付けます。17時に開場します。

第2部:ゲストを囲んで軽食と飲み物の会

 ソフトドリンク、ビール、ワイン、サンドイッチ、ピザ等の飲み物と軽食を準備します。実費学生1,000円、一般の方2,000円程度申し受けます。差し入れ歓迎(差し入れして下さった方の割引あります)。

 時間:19時過ぎ〜20時過ぎ

 場所:大阪大学大学院文学研究科・大会議室

  この項末尾のアクセスマップをご参照ください。

 参加方法:学生、教員、職員、学内外を問わず、どなたでも参加できます(要予約)。リンク先のフォームからお申し込みいただくか、直接、金水までお知らせください。

 申し込みしめ切り:2018年1月12日(金)

 連絡先メールアドレス: kinsui(at)let.osaka-u.ac.jp (金水 敏)

                                                 (at)を半角@に変えて下さい。

 主催:金水 敏(大阪大学大学院文学研究科長)

 協力:大阪大学大学院文学研究科/大阪大学全学教育推進機構

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2010年6月 6日 (日)

小論文

平成22年度熊本大学文学部入学試験問題(後期日程)・小論文の課題に、私の以下の文章が採用されました。

  • 金水 敏「言と文の日本語史」『文学』11・12月号、岩波書店

漢字の多い、小難しい文章を読まされて、受験生の皆さんには迷惑をおかけしました。

でもよく考えると、分かりやすい文章では、試験問題にならないわけですね。受験生の迷惑は、私のせいではなく、文章を選んだ出題者の責任、ということになるでしょう。

ああ、よかった。

ところで、もしわたしがこの試験を受けて、思い通りに解答を書いたら、受かるのだろうか?興味深いところです。

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2009年1月 3日 (土)

Erasmus Mundus

私の勤務校のO大学は昨年10月から、エラスムス・ムンドゥス・プログラム (Erasmus Mundus Programme. 以下、EM) の域外協力校として、ヨーロッパからの短期留学生を受け入れ、英語の授業を提供しています。EM の中でも特にユーロ・カルチャーという人文系のサブ・プログラムで、文学研究科を中心に、5つの講義を提供することになりました。すべて、授業は英語で行われます。

私は、あまり深い考えもなしに、自分でも出来そうな気がして、授業担当者に加わってしまいました。役割語をテーマにした授業です。英語での授業はこれまで2回やったことがあったし、役割語の英語の講演も何回かやっていたので、大丈夫だろうと思い、軽く引き受けたのです。

でも、1回目の授業が終わって、これは大変なことになったと心底へこみました。思ったことの10分の1も言えないし、英語の教材を毎回そろえるだけでも時間がかかるし、エラスムス・ムンドゥスの授業のシステムにも不案内だし、目の前が真っ暗になって、1回目の授業のあとすぐ校舎の屋上から飛び降りたい気持ちでした。

しかも、授業が円滑に行われるようにと、主催校のグローニンゲン大学から教授の方が来られて、すべての授業の参観をされるということになりました。これはすごいプレッシャーです。

「とんでもない能力の低い教師がいる」

なんて報告されるのではないか、と本気で悩みました。学生も、自分を値踏みしているように感じられ、視線が針のように突き刺さってくる気がして、まともに顔が見られませんでした。心の支えは、「この内容なら世界中で自分に勝てるものはいない」という自負だけでしたが、何度も心が折れそうになりました。

しかし、3,4回授業を進めるうちに、少し余裕も出てきて、学生の顔も認識できるようになりました。特に、義務として2回行うことになっていたフィールドワークで、11月に宝塚市立手塚治虫記念館と、京都国際マンガミュージアムに連れて行ったときは、学生とも少しうち解けて会話もできるようになりました。

EMの学生さんは、ドイツ人、イギリス人、スペイン人の男性、ドイツ人、ポーランド人の女性の計5人で、全員熱心で積極的に授業に参加し、しかも礼儀正しく接してくれました。学生のコメントやレポートから、かえって多くのことを学ぶことができました(それが、授業を担当した最大の目的だったのですが)。2回ほど参観されたグローニンゲン大学のデ・ヤング教授(女性)も、穏やかな方で、私の授業をおもしろがって下さいました(私の授業では日本のポピュラーカルチャーの歴史を取り上げたのですが、デ・ヤング教授は大の日本アニメ好きだったようです)。O大の学生も、単位を申請している2人を中心に、何人かがもぐりで出入りしていました。

10回の講義を終わってみて、引き受けてよかったというのが私の感想です。優秀で熱心な学生さんとの出会いもありましたし、この授業がなければ一生読まなかったかもしれない英語の文献もたくさん読みましたし、EM の厳密で創造的な授業のシステムを身を以て体験できたことも得難い経験でした。これ以上の FD (ファカルティ・ディベロップメント)はめったにないと思います。あと、TAを引き受けて下さった澤邊興平さんの高い能力には大変助けられました。

でも、あまりに負担も大きいので、来年度の担当は遠慮しました。優秀な先生はたくさんいらっしゃるので、私が担当し続ける必要もないと思います。できればたくさんの先生が体験されることがむしろ大事だと思いました。

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2007年3月24日 (土)

準教授・准教授

この記事に対し、Doさんが次のようなコメントを下さいました。

準教授ですか。准教授は使わないんでしょうか。手元の翻訳本などでは米国では准教授と呼ばれているようですが。

私も知識があやふやだったので、少し調べてみましたが、平成19年4月施行の改正「学校教育法」では、「准教授」という表記が用いられています。一方、阪大、京大、九州大等の国立大学では、「準教授」を使用するようで、文部科学省の文書にも「準教授」の表記が見えます。どちらにしても、英語の associate professor を踏まえた用語だと思います。

では「準」と「准」にはどういう違いがあるかというと、つまり字の起源としては同じであり、後者は前者の略字(省画字)、ということになりそうです。意味も音も同じです。「ならう」「なずらう」といった意味ですね。

しかしながら「批准」という語については一般に「準」の字は使わないので、分布に違いがあることも確かです。

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2007年2月11日 (日)

テレビと科学

昨日、テレビのチャンネルをあちこち見ていたら、不意に女性アナウンサーがまじめくさった顔でお詫びのメッセージを淡々と告知しているシーンが映し出され、思わず手が止まりました。TBS制作の「人間!これでいいのだ」という番組です。ホームページにメッセージの全文がありましたので、転載します。

「頭の良くなる音」についてのお詫び
 2月3日、この番組で扱った、2000年に発表された「ハイパーソニック・エフェクト研究」について、不適切な扱いがありました。
 企画立案の当初、研究チームの方々に対し、本企画に関するご協力と研究内容のご紹介をさせていただくようお願いしましたが、丁寧なアドバイスとともにお断りを頂きました。
 こうした経緯があるにもかかわらず、今回の放送でこの研究を取り上げ、研究チームに無断で制作を進める過程で、不適切な扱いが生じ、研究に対する著しい誤解を導きました。特に、画期的な事実の発見とともに実験の厳密性を大きな特徴とし、現在国際学会で最高度の注目を集めている貴重な研究への評価、信頼性、応用可能性、及び研究者の皆様の名誉を著しく傷つけてしまいました。関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。
 今後は、この研究の真価を正しく伝えて社会に広がった誤った認識を改めるために、その評価、信頼性、名誉を回復する情報発信に最善を尽くします。
 また、この番組の制作にあたり、データの捏造などはなかったと考えておりますが、番組内で「頭の良くなる音」と断定的にお伝えするなど、行き過ぎた表現から視聴者の皆様の誤解を招くこととなりました。
視聴者、関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。

一連の「あるある」事件に刺激され、報道ですっぱ抜かれる前に先手を打ったものでしょう。たぶん、関わった研究者から、クレームがあったのだと思います。

私の専門は国語学・言語学で、自然科学とは若干ニュアンスが異なる部分もありますが、「研究チームに無断で制作を進める過程で、不適切な扱いが生じ、研究に対する著しい誤解を導」くような扱いをされたケースは、私の回りだけでも枚挙に暇がありません。制作者の不勉強による意味不明の問い合わせ、研究者の意図に反する結論や不正確な引用などに不快な思いをさせられた友人・知人の事例が複数存在します(一例として、ここ)。

テレビ特有の表現形態もあり、多少のことは笑ってすませてもいいのですが、「研究の真価」が「正しく伝」わらずに「誤った認識」を「社会に広」げられるという構図は、分野の境を超えて共通の問題が横たわっているように思われ、そういう意味では軽々に看過することもできないように思われます。テレビ番組が、視聴率獲得にばかり気を取られるあまり、視聴者の科学的判断を曇らせ、健全な思考の育成を妨げる方向にばかり向かっているのであれば、いずれ研究者は何らかのアクションを起こさざるを得ないでしょう。

関連して、私の身に降りかかった事例について、ご報告しておきます。某局で今も放送中の、日本語をテーマとしたバラエティ番組です。私はこの番組の司会を務めるタレントの言語感覚の鋭さに敬服しており、研究のヒントをもらうことも度々ありました。その番組の制作者から、去年の8月、電話がかかってきました。私の知人で、某国立大学の教授から紹介されて、電話をかけたと言っています。当初、私としては、好きなタレントに関われるということで、結構「うきうき」だったのですが、電話のポイントは次のようなものでした。

  1. 役割語の語源は何か。誰が考えたのか。
  2. 番組としては、「キャラ語」という言葉を使いたいが、どう思うか。
  3. 「キャラ語」の例として、たとえばアントニオ猪木だったら「1,2,3、ダァー」のように、その人物がいかにも言いそうなせりふというのを考えていて、それをタレントにあてさせる、といったゲームをしたい。

1については、意図がよく分からなかったのですが、私がを書いた経緯などを話しました。2と3については、私は「キャラ語」を別の意味で使いたいと思っている旨を伝え、また3のような「物まね語」は役割語と関係ないとは言えないが(特定個人の特徴的な話し方が、その個人が属するカテゴリーの属性として認識されるにいたる場合もあったりするので)、それを扱う限りでは役割語とは別物と言わざるを得ず、そうであるならば、独自に「キャラ語」という概念でそういった物まね語を指すことについては、勝手にやってもらえばいい、と伝えました。そうすると、相手は、

それでは(某教授)と相談して、やらせていただきます。

と言って電話を切りました。

2週間ほどして、テレビ欄にその番組の告知があり、どうやら「キャラ語」が放送されるらしいことを知りました(私には、最初の電話以来、一度も連絡無し)。朝刊と夕刊のテレビ欄の見出しは、下記の通りです。

8月15日朝日新聞朝刊「タモリのジャポニカ/キャラ言葉」

8月15日朝日新聞夕刊「「タモリのジャポニカ/超有名キャラから学ぶ爆笑役割語」

「役割語」と出ているのが気になります。番組を、複雑な思いで、見てみました。冒頭から、お茶の水博士の「博士語」やら、お蝶夫人の「お嬢様語」やら、明らかに拙著からの引用と思われる例を提示し、こういう、キャラクターと結びついた話し方を「キャラ語」と命名します!と断言していました。そのあとで、電話でも言っていたような物まね語も「キャラ語」として提示し、クイズ形式の遊びをタレントにやらせていました。某教授は、番組の折々に出演し、「キャラ語」について解説し、タレントの解答を評価していました。最後まで、拙著や私の名前は一切(テロップも含め)提示されることはありませんでした。

この番組でやったことは、拙著から引用した「役割語」の概念と、「物まね語」を合体させ、「キャラ語」という用語で覆って提示するということで、私の考える「役割語」と別物と言えばそうです。このような形で私の名前が出されても、困るところがあります。かといって、部分的には私の考えも生かされ、それを踏まえて、どちらかといえば改悪されているわけで、事前の説明も極めて不十分ですし、全体として私は大いに不満かつ不愉快です。

特に残念なのは、何冊も言語学の解説書を出している立派な国立大学の研究者が、このようにアンフェアな提示の仕方に全面的に関わり、我が物顔に番組を取り仕切っている構図が見えてしまったことです。私は、この先生が関わっているから、そんなにひどいことにはならないだろうと思って制作者に一任した訳で、完全に裏切られた思いがしました。

(私は、この教授と絶交しようと思いましたが、もともとそんなに親しくなかったので、絶交してもあまり効果がないようです)

日本語関係の番組が増えることにより、多くの方々が日本語に興味を持ち、そのおかげで我々研究者が潤っている部分もなきにしもあらずですが、私がそういった番組を見る限り、たいていは噴飯もので、見るに堪えない内容が圧倒的に多いです。自然科学はもちろん、言語学でもその他の分野でも、同様のことは頻繁に起こっていると想像されてしまいます。娯楽性と、健全な科学的精神をうまく両立させるような番組作りというのは、確かに難しいことだろうとは思いますが、今の多くのテレビ番組制作者は、そのような取組を最初から放棄しているのではないでしょうか。残念ながら、そのように思われてなりません。

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2007年1月26日 (金)

「科学的」実験

日本学術会議会長の談話です。「あるある」のことを指しているのでしょうか。それとも、「で○じろう」? 「で○じろう」は別に悪いコトしてませんよね。

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**  日本学術会議ニュース・メール  **     No.64    **  2007/01/26  **
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◇ テレビ番組等における「科学的」実験についての会長談話

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  本日、標記談話を以下のとおり発表しましたので、お知らせします。
  なお、日本学術会議ホームページにも掲載しましたので、ご参照ください。
   (http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-d4.pdf

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    テレビ番組等における「科学的」実験についての会長談話

  食品の影響を取り扱うテレビ番組等において、体重、血圧、脳波、血液成分、
各種の生理学的因子等に対する食品の影響を測定する実験が行われることが多
くなった。このような傾向は、科学的事実に基づいた情報発信を行うという点
では望ましいものである。
 
  しかし、その実験計画の中には、適切な対照群の設定、統計的な有意差を得
るために必要な実験例数の設定、実験データの検証と解釈などの点で、科学研
究の基礎的な要件を必ずしも満たしていないものが見受けられる。このような
不十分な実験計画からは、誤った結論が導かれることが多い。したがって、科
学に精通した人材による実験計画の策定と実施を心がけることが極めて重要で
ある。

  これに加えて、最近、実験データの捏造などの、科学の倫理に反する行為が
行われたことが報道された。いうまでもなく、テレビ番組は国民に与える影響
が極めて大きく、そこに捏造等の不正行為があれば、テレビなどによる情報発
信、ひいては科学そのものに対する信頼を著しく傷つけかねない。
 
  残念ながら、科学者の研究活動にも、間違いや不正行為が起こりうる。日本
学術会議は、わが国の科学者コミュニティを代表する立場から、科学者の不正
行為の防止に向けて検討を重ね、平成18年10月には「科学者の行動規範につい
て」(声明)を発表した。この声明の内容は、テレビ番組等における科学実験の
計画・実施に関わる者も、当然、守るべきものであると考える。
 
  関係者におかれては、この声明を参照して、不正行為の防止を自らの課題と
とらえて十分な対応を行い、社会の信頼を得られる番組の制作などに心がけて
いただきたい。

                                                       平成19年1月26日
                                                      日本学術会議会長
                                                           金 澤 一 郎

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   日本学術会議ニュースメールは転載は自由ですので、関係団体の学術
  誌等への転載や関係団体の構成員への転送等をしていただき、より多く
  の方にお読みいただけるようにお取り計らいください。
   また、メールアドレスの変更等がありましたら、事務局
p228@scj.go.jp)まで御一報いただければ幸いです。
====================================================================
 発行:日本学術会議事務局 http://www.scj.go.jp/
      〒106-8555  東京都港区六本木7-22-34  

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2006年10月20日 (金)

訃報

木村尚三郎先生が10月17日にお亡くなりになりました。

学生時代、木村先生の西洋史の講義を、駒場で聞きました。大教室で、大変な数の受講者でした。Wikipediaの年譜で見たら、私が入学した次の年に、都立大から東大に移られたようです。

お話上手で、漫談のようでした。西洋史の話題はよく覚えていないのですが、サラダの作り方を教えて下さったのはよく覚えています。ボールにサラダ菜とゆで卵の輪切りを入れ、お酢と油を直接加えたら全部ぐちょぐちょに混ぜろ、というものです。やってみましたが、見た目は悪いけど確かにうまかったです。

あと、「日照権」が問題になっているが、部屋は日が当たらない方が畳も焼けなくていいんだ、という話を力説していらっしゃったことも覚えてます。

ご冥福をお祈り申し上げます。

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2006年8月27日 (日)

dwarf planet

例の、惑星の新定義について、「日本学術会議ニュース・メール」から引用します。

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**  日本学術会議ニュース・メール  **    No.27  **  2006/08/25  **
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  ◎ 太陽系惑星の新定義!!

  ◎「学術の動向」への寄稿のお願い!

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■国際天文学連合総会における決議(報告)
   
  8月14日からチェコのプラハで開催されていた第26回国際天文学
 連合(International Astronomical Union、以下IAU)総会は、8月24
 日、太陽系の惑星について、骨子以下のように決定した。
  
  これは海王星・冥王星より遠い小天体が最近多数発見されていること
 などにより、これまでの太陽系像を改定する科学的必要が生じたもので、
 2年近い討議と特別委員会での検討、今回の総会での熱心な科学的討議
 により決定されたものである。特別委員会には、国立天文台の渡部潤一
 助教授が委員として参加した。
  
  なお、日本学術会議は日本における国際天文学連合の加入団体であり、
 今回の総会には日本代表として海部宣男日本学術会議会員(前国立天文
 台長)、ほか2名が派遣された。

 (1) 太陽系の惑星は、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、
    海王星の8つとする。冥王星は、惑星とは呼ばない。これは、その
    公転軌道の近傍領域における力学的な主要天体であることを惑星の
    新しい条件としたことによるもの。冥王星は小さく、この条件にあ
    てはまらない。
 (2) 太陽系における新しい種類の天体として、「dwarf planet」を定
    義する。これらは小さいため惑星ではないが太陽を回る一人前の天
    体と認められるもので、これまで惑星とされていた冥王星、「小惑
    星」の仲間であったセレス、最近発見された海王星よりも遠くを回
    る天体2003UB313などが「dwarf planet」である。基準ぎりぎりの
       天体をdwarf planetとするかどうかは、今後制定されるIAUの手続き
       によるものとする。
 (3) そのほかの小さな小惑星(アステロイド)や海王星以遠の天体、
       彗星、隕石など太陽系内の小天体は、「Small Solar System Bodies」
       と総称する。
 (4) 「dwarf planet」のうち、最近発見が続いている海王星以遠の天体
       (Trans-Neptunian Objects)を、冥王星をその代表とする新しいク
       ラスの天体と認める。このクラスの天体の名称はIAUのプロセスに従
       って検討する。
  
   詳しくは、国立天文台ホームページ(http://www.nao.ac.jp/)を参照
   されたい。
    
     なお、上記のdwarf planet、small solar system body、Trans-Neptunian
    Objectsなどの和名と概念の整理、および関連する国内での記載法等につ
    いては、今後日本学術会議と関係学協会が中心となり、科学や教育など
    広い分野の関係者と協議し、とりまとめて公表する予定である。
    
       平成18年8月25日  日本学術会議 会長 黒川 清
                日本学術会議会員(IAU日本代表)海部宣男

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2006年8月 7日 (月)

NY旅日記:トルコ料理に舌鼓

Dsc03150 8月6日、大会二日目で最終日です。今朝も8時から、朝ご飯をLow Libraryに食べに行きました。研究発表や、日本アニメに関する基調講演、ポスターセッションなどの合間に、大学のBook StoreでTシャツなどの買い物もしました。午後には鄭さんの発表もありましたが、なかなか上手でわかりやすい発表で、反応もよかったようです。

反応と言えば、何人もの知ってる方、知らない方に、「発表がおもしろかった」と言われました。まあ、専門違いなので優しく言ってくださっているのだろうと思います。

Dsc03158 6時に、Low Libraryの前で鄭さん、岡崎さん、Shirane先生と待ち合わせをしました。Shirane先生がおいしいお店に連れて行ってくださるとのことでしたが、その前に、コロンビア大の歴史と構造についてご説明してくださり、その上に、ご自分のアパートメントまで見せてくださいました。アパートメントは大学の敷地内にあり、アメリカの中でも古い建物になるそうです。広くて立派な部屋が、教授だと格安で借りられ、改造費も大学が出してくれるとのこと。日本との、教授の待遇の違いにため息がでました。

Dsc03159 Shirane先生が連れて行ってくださったのは、West 79th近くのトルコ料理店Pashaというところで、ほんとにほんとにおいしかったです。参りました。Shirane先生は、英語と日本語のほぼ完璧なバイリンガルで、お話がお上手で話題も広く、ずっと聞いていたい気持ちになります。時々子供っぽく笑われるところも、とてもチャーミングです。

というわけで、今日も充実していました。

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