『キャンパスに咲く花―豊中キャンパス編―』に寄稿した原稿です。
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最初にお断りしますが、私は一介の「きのこファン」であり、専門家でもなんでもありません(専門は、日本語史です)。キノコのなにが私を引きつけるのか?それは、ただひたすら、「色、形が面白い!」ということです。普段見慣れた林、草むら、道ばたなどで、思いもしなかった奇抜な色や形のキノコがひょっこり顔をのぞかせているのを見つけたときのドキドキ感は、ほかには代え難い"快感"なのです。この快感に味を占めると、人があまり足を踏み入れない籔の中、岡の斜面、草むらの奥、ゴミ捨て場などにもどんどん入っていってしまいます。10月~11月ですと、ズボン一面にべったりとアレチヌスビトハギの豆果が張り付いてしまって、取るのに難儀をします。そんな苦労をして、たいていは何も見つけられないことの方が多いのですが、それでも「あっ」と驚く発見がたまにはあるので、やめられないのです。あと、キノコの魅力と言えば言えるのが、概してその(目に見える部分の)命の短いことです。サルノコシカケのように長い年月をかけて成長するものは別にして、一週間もその場にあることはまれで、二,三日、短い場合は一日もしないうちに解けてなくなってしまうものも多いのです。とすれば、キノコと出会うことはまさに一期一会、それだけに貴重な出会いを夢見てごそごそと籔探しをしてしまう訳です。
さて、私のような素人キノコ愛好家にとって一番困るのが同定です。私はもっぱら、『山渓カラー名鑑 日本のきのこ』一冊に頼って、ページをなんども繰っては、あれかこれかと、行きつ戻りつを繰り返しています。しかし写真との突き合わせだけでは、似たキノコが多いだけに不完全であり、「きのこの全体や各部位などの外観的な特徴を調べるだけでなく、生態的な特徴や顕微鏡的な特徴をも併せての判断が必要」(前掲書14頁)なのだそうで、そうなると素人にはとても歯が立ちません。しかも「日本産きのこの推定種類数は4000とも5000ともいわれていて、本書といえども約4分の1から5分の1しか収録できてい」ないそうなので(前掲書15頁)、何とも頼りない話です(そんなわたしが、本書の同定作業のお手伝いをしているわけで、どうぞ間違っていても大目に見ていただきますように)。それでも、見つけたキノコの名前が、暫定的にせよ分かった時の喜びは、発見の喜びに次ぐものがあります。人間とは、つくづく「名付ける動物」なのだと思う瞬間です。
本書のフィールドである豊中キャンパスですが、クヌギ、アラカシ、コナラなどの広葉樹が多く、キノコの種類が本来多いはずの植生ですが、私の歩き回った印象では、比較的日当たりがよくて地面が乾燥傾向にあるため、キノコは思ったより少ないようです。キノコはなにより、じめじめ、しっとりと湿った場所を好むのです。それでも、丹念に探し回れば、思いがけない出会いもきっとあるでしょう。本書では、写真撮影のできたもののうち、たぶん間違いのない14種を選んで図鑑形式で掲げましたが、たぶん3倍から4倍くらいの種類は見つかると思います。
本書のキノコ・コーナーの白眉はなんと言ってもキヌガサタケでしょう。マントを広げたようなその優雅な形から、「キノコの女王」とも呼ばれています。しかしこのキノコを撮影したのは栗原さんで、残念ながら私は未見です。何とか在職中に出会いたいものです。変わった形のものとしては、ツマミタケ、カニノツメがあります。その名の通り、何かをつまんでいる指先のようでもあり、カニのツメがにょっきり地面から突き出されているようでもあります。とても小さくてかわいらしいキノコで、気づかずに踏みつけてしまうこともあるでしょう。また、色は地味ですが、星の形のようなエリマキツチグリもチャーミングです。いかにもキノコらしい、立派な形のキノコと言えば、テングダケ、ヘビキノコモドキ、ヤマドリタケモドキといったところでしょうか。ヤマドリタケモドキは、シーズンになると割とにょきにょきたくさん生えてきます。ムラサキシメジ、ハタケシメジなどは、比較的長いシーズン、たくさん生えています。
図鑑には、あんなキノコ、こんなキノコとすてきな仲間がたくさん掲載されています。写真を見ているだけで胸が躍るのですが、そんなキノコにキャンパスの中で出会えたら、こんなにすばらしいことはないですね。新しい出会い、懐かしい出会い、おなじみの出会いを求め、シーズンを待ちわびながら、この原稿を書いています。あともう一つの夢としては、「キャンパスのキノコを食べる会」を催すことです。本書に掲げたキノコも半分以上は食べられます。しかし同定に不安の残る素人判断なので、ここはぜひ、プロの方につきあってもらって実現させたいところです。(以上)
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