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2008年2月23日 (土)

入試に採用

昨日、いわゆる『赤本』(大学ごとに、毎年の入試を集めて解答と解説を付けて売っている本)を編集・販売している教学社から、自宅に封書が届いていました。

開けてみると、拙著『ヴァーチャル日本語 役割語』転載の許諾申請書が入っていました。どういうことかというと、2月6日に実施された、追手門学院大学の「一般入学(A)試験問題」に拙著から問題文が出題されたものを、赤本に収録するに当たり、著者の私に許諾を求めてきたというわけです。問題文も一緒に入っていました。

見ると、拙著の第2章から、数カ所にわたって引用されていました。大学入試問題に直接的に採用されたのは、今回が初めてです。

2008年2月13日 (水)

ハマータウンの野郎ども

 「学校教育と労働が複雑に絡み合う結び目を解きほぐす、先駆的な文化批評の試み」(ちくま書房HPでの紹介文)であり、「日本の『ツッパリ』文化」との比較的考察という観点(表智之「マンガと現代思想」『差別と向き合うマンガたち』188頁など)から大変興味深いのですが、インタビューを再現した部分は翻訳の用例としても拾えそうです。「ヤンキー言葉」のほか「おじさん言葉」も続出です(IT)。

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ポール・ウィリス[Willis, Paul E.](著)
熊沢 誠、山田 潤(訳)
『ハマータウンの野郎ども』
[原書名:LEARNING TO LABOUR
ちくま学芸文庫、1996年
ISBN:4480082964

【目次】
序章 「落ちこぼれ」の文化
第1章 対抗文化の諸相
第2章 対抗文化の重層構造
第3章 教室から工場へ
第4章 洞察の光
第5章 制約の影
第6章 イデオロギーの役割
第7章 文化と再生産の理論のために
第8章 月曜の朝の憂鬱と希望

【本文より】

ウィル あの公園のことでもさ、ウェビィのおっちょこちょいにはまいったぜ。おれとエディでさ、うまくもぐり込んでたんだ。そしたら公園の番人がまわってきやがった、なにか見つけて走ってくみたいだったな。で、おれとエディは反対側に隠れて、二人とも猿みたいにしゃがみこんでたのさ。ところだウェビィのやつがぼんやり立ってやがんだ。番人が「おい、そこのおまえ、出て行かんか、公園から出ろ、おまえらは入っちゃいかんのだ」。そんなことを言っておれたちの近くを、おれとエディが坐り込んでたところを通り過ぎてさ、「おまえじゃない、ほかにもいるんだ、おまえはここにいたんだからな」なんて言うもんだからさウェビィのやつ、「ぼくじゃないですよ、そりゃ、あのう・・・・・・」ってなぐあいに、いまにもみんなベラベラしゃべっちまうようすなんだ、そうだったよな?(67頁)

教頭 生徒を叱りつけるときはね、連中にぐっと肩身の狭い思いをさせるというふうでなきゃだめなんです。(中略―引用者)、教師なり、教頭である私なりが、こんどのことではずいぶん困惑しているってことを連中にわからせるんですな。それで、なぜこんな困った事態になったかをこんこんと説いて聞かせて、まあ、それというのも自分たちが迷惑のもとになってるんだってことをわからせるんですわ。そこまで行きゃね、叱り方としては完璧ですね。「このばか野郎が」って怒鳴ってみたところで何もなりゃしません。反対に怒鳴り返されるのが落ちでね。(165頁)

校長 かりに五年生の生徒に処罰を与えねばならないとしますとね、そんなときは面倒なことを避けて、ただ生徒を私のこの席に坐らせるんですよ。そうすれば、まあたいがい自分でわかるようになります。そういう生徒たちにはよく言ってやるんですわ、「この件については私としてはどうすればいいんだろう、きみはもう五年生だからよくわかるはずだね。こんな場合どうすべきか。私の椅子に坐りたまえ、私がきみのつもりでそっちに立つから、さあ、この件の始末をどうするか私に言ってみなさい」(166-167頁)

2008年2月10日 (日)

ほぼ日刊イトイ新聞

2月9日「ほぼ日刊イトイ新聞」の「今日のダーリン」で、役割語のことが取りあげられました。拙著2冊お買い上げいただいたとのことです。お礼のメールを出したら、糸井重里さんからお返事をいただきました。「オトナ語と役割語で何か企画しましょう」とご提案をいただきました。楽しみに待つことにします(SK)。

サンフランシスコで講演

2008年3月1日~2日、サンフランシスコ州立大学で行われる「第6回応用日本語学会議」(Sixth International Conference on Practical Linguistics of Japanese: ICPLJ6)で講演を行います。講演は、2日の10時5分~11時45分です。日本語で行います。概要を下に引いておきます。

ヴァーチャル日本語 役割語について

大阪大学大学院文学研究科
金水 敏

フィクションの世界で登場人物が話す会話には、そのスタイル(語彙、語法、音声・音韻、プロソディ等)と話し手の人物像(年齢、性別、職業・階層・知性・品位、国籍・地方、人種、性格、場面等)との間に密接な関連がある。例えば、次のような発話の例を見られたい。

a. そうよ、あたしが知ってるわ
b. そうじゃ、わしが知っておる
c. そや、わてが知っとるでえ
d. 左様、拙者が存じておる
e. そうですわよ、わたくしが存じておりますわ
f. そうあるよ、わたしが知ってるあるよ
g.そうだよ、ぼくが知ってるのさ
h. んだ、おら知ってるだ

それぞれ、(普通の)女性、男性の老人、関西人、武士、上品な女性、中国人、(若い)男性、田舎者といった人物像が浮かび上がってくるだろう。発話内容はまったく同一であるが、語彙・語法の組み合わせによって、まったく異なる話し手の人物像が指し示されるのである。しかし、これらのスタイルと人物像の結びつきは、現実の体験や教育の中で学ばれるものとは考えにくい。なぜなら、現実の老人は(方言を除いては)bのような話し方をするわけではないし、dのように話す武士は現代の社会には存在しない。

金水(2000)ではこのように特定の人物像(のステレオタイプ)と結びついた発話スタイルを「役割語」と名付け、金水(2003)ではその理論的背景、歴史的起源等について述べた。また金水(編)(2007)では、役割語をめぐって10人の著者による研究論文が集められた。
役割語をめぐっては、例えば次のような問題点が取り出される。

1. 心理的・機能的問題
・役割語の知識はいつ、どのようにして学ばれるのか。
・役割語は心理的にどのように基礎づけられるか。
・役割語はなぜフィクションで用いられるのか。
・役割語の知識はフィクション以外ではどのような機能を発揮するのか。
2. 起源的・歴史的問題
・役割語はどのように発生・固定・伝播するのか。
・現実の言語と役割語はどのように歴史的に交渉するか。
3. 言語内的問題
・役割語の特徴はどのような言語的特徴によって構成されるのか。
4. 社会的・政治的問題
・役割語によって表し分けられる人物像はどのように決定されるのか。
・役割語と偏見・差別はどのように結びついているか。
・日常の言語使用の中で、役割語の知識はどのように活用されているか。
5. 対照言語学的・社会学的問題
・日本語以外の言語で役割語はどのように表現されるか。
・役割語によって表される人物像の、言語間・文化間での相違はどのようなものか。
6. 応用言語学的問題
・言語教育(母国語・外国語)に役割語研究はどのように貢献するか。
7. 芸術的問題
・表現者は役割語をなぜ、またどのように利用し、変形し、また創造するか。
・役割語の翻訳はどのように可能/不可能か。

 本発表では、以上の問題について、老人語、男性語/女性語、ピジン日本語等を例に取りながら考察し、現時点での考えを述べる。

参考文献
金水 敏(2000)「役割語探求の提案」佐藤喜代治(編)『国語史の新視点』国語論究, 第8集, pp. 311-351, 東京:明治書院.
金水 敏(2003)『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』 東京:岩波書店.
金水 敏(編)(2006)『役割語研究の地平』 東京:くろしお書店.

2008年2月 8日 (金)

おじさん言葉

 「日本経済新聞」2008(平成20)年2月5日(火曜日)付夕刊(近畿版第4版)12面のコラム「にほんごチェック」(大阪大学大学院言語文化研究科教授 小矢野哲夫氏、毎週火曜日連載)において役割語に関する言及がありました。以下に引用させていただきます。なお、文中の「馬場氏」とは、現在放映中のドラマ「佐々木夫妻の仁義なき戦い」(TBS)に登場する、藤田まことさん演ずる弁護士のことを指しています。

「・・・ですな」 おじさんに多い言葉遣い

 (前半略)

 馬場氏の「ですな」は年齢相応の表現として味がある。若い世代はこのような表現はまずしない。方言を除くと、共通語スタイルで「ですな」「でしたな」「ますな」「ましたな」を使うのは年配者だ。しかも男性に顕著だ。中年以上の男性。明らかにおじさんと呼ばれる人の中に、この種の表現をする人がいる。「おじさん言葉」と呼ばれる。
 大阪大学大学院教授の金水敏さんが提唱する「役割語」に入るだろう。

 (後半略)

 なお、上のコラムの全文のほか、過去のコラム、その他多数の論文、エッセイ、講演録、ペットのお写真、料理の作り方などなどを、小矢野先生ご自身のホームページ「けとば珍聞」で見ることができます。ぜひあわせてご覧下さい。

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