役割語研究会(2021年9月25日)のお知らせ(参加方法等)
下記の要領で役割語研究会を行います。どなたでも参加できます。参加ご希望の方は、下記フォームより必要な情報を入力して、送信してください。しめ切りは9月15日(水)です。後日、ミーティング情報をお送りします。
参加フォーム:https://forms.gle/vpxwf1tBfJkV2Fwc6
役割語研究会
2021年9月25日(土)13:00〜18:00(日本時間)
オンライン (Zoom)
プログラム
- 13:00-13:50
《人格》、《キャラクター》と“霊的事象”:『千と千尋の神隠し』『海辺のカフカ』を例に
金水 敏(大阪大学・大学院文学研究科・教授)
- 14:00-14:50
キャラ助詞の出現位置と機能に関する再検討
劉天陽
- 15:00-15:50
『風と共に去りぬ』の3つの翻訳の比較:アンケート調査による方言・役割語の認識に関する研究(発表言語:英語、日本語)
Haydn Trowell(名古屋大学・非常勤講師)・南部 智史(Monash University, Lecturer)
(休憩)15:50-16:10
- 16:10-17:00
永劫を生きる少年と老人の言葉遣い:マンガ『ポーの一族』シリーズの役割語とキャラクターを時間的観点から考える
イーヴァソン房枝(ヨーテボリ大学・言語文学科・上級講師)
- 17:10-18:00
ラ行顫動音の表す人物像の変遷
勅使河原三保子(駒澤大学・総合教育研究部外国語第一部門・教授)
アブストラクト
- 《人格》、《キャラクター》と“霊的事象”:『千と千尋の神隠し』『海辺のカフカ』を例に
金水 敏(大阪大学・大学院文学研究科・教授)
金水(印刷中)では、フィクションの登場人物(インディビジュアル)を《人格》と《キャラクター》の組み合わせとして分析することを提案している。《キャラクター》は記述可能、転移可能な属性のセットであり、《人格》は唯一性を与えられた「心」「精神」「魂」「霊魂」等に相当する概念である。肉体という《キャラクター》から《人格》が独立して物語世界に影響をおよぼす出来事を“霊的事象”と呼ぶことにする。霊的事象が物語にとって重要な構成要素となることを、ジブリアニメや村上春樹の小説作品等から例を挙げて説明する。
- キャラ助詞の出現位置と機能に関する再検討
劉天陽
キャラ助詞とは、キャラ語尾(金水2003)の下位分類の一つであり、「自分の繰り出したいキャラクタを体現する助詞」(定延2005)である。人物像しか表さない言語形式である(金田2008)。しかし、(1)と(2)のように、キャラ助詞と認定できる「~メポ」は、統語的機能を果たしている。
- (1) 美墨なぎさ:朝ごはんもあげない! じゃあ~ね。
メップル:あ~、ちょっと…ちょっと待つメポ。(『ふたりはプリキュア』:9話)
- (2) メップル:きっとドツクゾーンのヤツらメポ!(『ふたりはプリキュア』:2話)
(1)の「待つメポ」は、「待って(ください)」に相当し、依頼のモダリティの機能を果たしている。(2)の「メポ」は、断定助動詞「だ」に相当するキャラコピュラ(定延2007)の用法と考えられる。つまり、発話の場面によって「メポ」は統語的機能も果たしている。このように、本発表は、「ふたりはプリキュア」に登場する「メップル」の使う「~メポ」を例に、前接要素の観察および統語的機能の判断により、キャラ助詞の出現位置および機能について再検討を行う。結論として、「~メポ」の出現位置が多様性を呈しており、出現位置によって機能の多様性が現れることを示す。
- 『風と共に去りぬ』の3つの翻訳の比較:アンケート調査による方言・役割語の認識に関する研究(発表言語:英語、日本語)
Haydn Trowell(名古屋大学・非常勤講師)・南部 智史(Monash University, Lecturer)
本研究では,マーガレット・ミッチェルの1936年の小説『風と共に去りぬ』の1938年、2015年、2015-2016年に出版された3つの邦訳における方言などの特徴的な言語形式の使用について考察する。Hiramoto(2009)や熊谷(2015)による先行研究では、これらの翻訳が黒人奴隷の登場人物が話す African American Vernacular English に基づく eye dialect を日本語で表現する際に、日本の東北地方の方言に由来する様々な言語的特徴を採用していることを指摘し、その翻訳手法が現実の東北方言話者に対する否定的な社会的認識を引き出しさらに強めていると主張している。本研究では、テキストの比較分析と定量的な認識調査の二つのアプローチにより、そのスピーチスタイルはむしろ「役割言語」という enregistered form (Agha 2003, 2005) として見なされるべきであると主張する。つまり、それはフィクションに特有の発話変種であり、読者の大多数の目には現実の方言話者という歴史的な起源とは無縁で、キャラクターの典型的特徴を特定するという役割を果たしているのである。
- 永劫を生きる少年と老人の言葉遣い:マンガ『ポーの一族』シリーズの役割語とキャラクターを時間的観点から考える
イーヴァソン房枝(ヨーテボリ大学・言語文学科・上級講師)
不老不死の吸血鬼の一族に加えられた少年を主人公とした萩尾望都氏によるマンガ『ポーの一族』シリーズ は、1972〜1976年に発表された15作品をもって一旦完結したが、2016年に再開され、2021年現在も再開後3作目が連載中である。当初の15作品では1744〜1976年の、再開後3作品では1888〜2016年の出来事が断片的に描かれている上、作品発表が非時系列順であるため、一連の「物語の時間」と発表に関わる「社会的時間」の両面で複雑な構造である。
現実的な人間社会に生きる不老不死の人物の話し方は、時代と外見に相応しいものだろうか、あるいは「実年齢」を反映したものだろうか。また、日本語フィクション作品の男性主人公の自称詞の主流は「ぼく」から「おれ」へと推移してきているが、不老不死の主人公の台詞には、発表時期や設定年代の違いを反映した差異が認められるだろうか。
本発表では、『ポーの一族』シリーズの主人公および一族の長老3名を取り上げ、その言葉遣いを発表時期別・設定年代別に分析し、彼らの役割とキャラクターを考察する。主人公はやや古風な上流の少年らしい言葉遣いの標準語を話すが、長老らは老人語ではなく性別や役割を反映した役割語を話し、どちらにも時期別・年代別の言葉遣いの差異は特に見られない。今後は本研究を同シリーズの多数の登場人物に広げ、キャラクターの類似性と時間構造の観点から考察を深め、役割語的特徴への英訳版における対応の検証にも発展させたい。
- ラ行顫動音の表す人物像の変遷
勅使河原三保子(駒澤大学・総合教育研究部外国語第一部門・教授)
/r/という音素が歯茎弾き音や顫動音[r](いわゆる「巻舌」)を含む複数の異音で実現される現象は言語の違いを超えて共通してみられる特徴である。日本語では巻舌は一般的な日常発話音声にはほとんど現れないにもかかわらず、現在の演劇や吹き替えの世界ではやくざやチンピラなどの悪役の男性登場人物を表すのに用いられる特徴であり、役割語の音声的側面の一例としてとらえることができる。本発表では、現在見られる巻舌と悪役の結びつきがどのように発生し、変遷してきたのかを、巻舌を用いる人物のタイプの変遷を整理することにより考察する。発表では、1930年代後半以降の映画およびテレビドラマが本格的に普及した1960年代以降のテレビドラマを対象に調査を行った結果を報告する。
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